ぺちゃんこ
人も国も流行だってぺちゃんこにするものは

 

13話の独立短編とも、連作長編とも読める本作は、1970年代末から近未来の2020年代をコンピレートしたアルバムと思うと、すごく楽しめる。主人公の「ならずもの」は、少女マンガの主人公が星や花を背負うごとく粋なBGMを纏って登場するからだ。人も国も流行も思想もひとしなみに踏みつぶし、ぺちゃんこにしていく暴君のテーマは、イギー・ポップだったり、ヴェルヴェッツだったり。危険を察知して逃れようとする蛙たちは、もっと悲惨な最期に向かう。白昼、公園でレイプ未遂にはしってみたり、晴れのパーティ会場に大事故を招いたり、重役会議にほかほかの大御馳走を持ち込んだり…。自虐と滑稽、運命と計算。神話的ポリフォニーの21世紀表現が、ここにある。ロック好き、パンク好き、ボウイー好きにはどうにもたまらない。

●五感連想
食べたくなるもの:中華粥
聞きたくなる音楽:David Bowie “Rock’n’roll Suicide”
想起する風景:ワールドトレードセンター、CBGB、セントラルパーク
連想するモノやコト:I LOVE NY
つながる本:『告白』町田康