血脈の本函
母権的な祖母の血の全てを包み込む…

それでも腐敗

『それでも私は腐敗と闘う』イングリッド・ベタンクール


マルケスがフィクションでコロンビアの根の国を書いたが、この本はノンフクション、現在のコロンビアの政治の暗部に敢然と闘いを挑んだ女性の自伝です。両親が共に政治家で、特に母親は若くして、ストリート・チルドレンの救済に奔走し、貧困問題の専門家となる。父親は大統領候補と言われながら、失脚したが、コロンビアでの民主的勢力の希望ではあった。そののち、ユネスコ大使としてパリに赴任している。イングリットはパリ・イギリスで教育をうけて、コロンビアに帰国する。コロンビアは政治的に腐敗の極限に在り、彼女は母親の影響を強く受け、政治に乗り出し、下院議員から出発する。さらに上院議員にもトップ当選し、先進的な活動を進め、保守政権に立ち向かい政治改革案を国民投票で勝ちとったり、不正選挙の抗議デモを組織したりという活動を続け、政治家とマフィアの癒着や大統領の腐敗を暴いて行く。コロンビアが持つ暴力的な側面、悪党による国政、無法状態と化した国政にノーをつきつけて大統領候補となる。がその選挙戦直前に(2002年)、武装集団(後に左翼ゲリラ、コロンビア革命軍FARCと判明)に誘拐された。政府は救済に消極的で、FARCの要求(服役してる兵士の解放)を拒否し、そののち安否不明となった。フランスなどが解放の働きかけをしたが日本政府はコメントなし。国際的な解放運動が展開されたが、進展がなかったためなんども死亡説が流れた。2010年アメリカのCIAのおとり作戦が功をそうして、ベタンクールは救助された。誘拐とその過酷な捕虜生活はこの本には書かれていないが、誘拐に至るまでの、コロンビアの腐敗に怒り、敢然と闘いを挑んでゆく女性はマチスモの強いラテンアメリカでは、稀有な女性の自立した姿が見て取れる。ラテンアメリカの女性がマルケスの描く母権的な祖母の血の全てを包み込む暖かさとともに、近代では新たな清新なきらめき、激烈に流れる血ともなる。

魔女:加藤恵子