血脈の本函
まさに血脈のドラキュラ…

新ドラキュラ

『新ドラキュラ 不死者(上・下)』デイカー・ストーカー&イアン・ホルト


まさに血脈のドラキュラである。作者は御存じ『ドラキュラ』の作者、ブラム・ストーカーの子孫が書いた続編である。本編が出版されたのは1897年で、続編の時代設定はドラキュラが死んだ(と思われた)年から25年後の1912年に設定されている。登場人物は多岐にわたり、本編で生き残ったジョナサン・ハーカー、ミナ・ハーカー、二人の間の息子クインシー・ハーカーが主な主人公で、ここにドラキュラが絡むわけである。

この作品は実は歴史をにぎわした事件が取りこまれている。その一つが切り裂きジャック事件であり、この犯人を追うロンドン警察の警部補が出てくる。しかし、犯人は実は女吸血鬼エリザベート・バートリで彼女は歴史上16世紀のハンガリー王国の残虐な王妃で、その不死者が次々と残虐な事件を起こして行き、遂にはドラキュラの最大の敵となって現れる。本編でドラキュラを倒すために活躍したアーサー・ホルムウッド、ヴァン・ヘルシング、ジョナサン・ハーカーたちは、ドラキュラが生き返って来たことを知り立ち向かうが早々と破れてしまうが、ストーリーの中では、ドラキュラに殺されたと思われるが、実はバートリに惨殺されたということが次第に明らかになる。この間クインシー・ハーカーはジョナサン・ハーカーの命令で、ソルボンヌで法律の勉強をさせられているが、芝居の役者になりたくて、両親に隠れて芝居に関わるうちに、有名なシェークスピア俳優のバサラブを知ることになり、彼をロンドンに連れて行き「ドラキュラ」の芝居をかけることに奔走することになる。しかし、バサラブは実はドラキュラの仮の姿なのである。クインシーがロンドンに滞在中、女吸血鬼バートリがバサラブの芝居小屋を攻撃し、バサラブは焼け死に(がドラキュラは生きている)、助けようとしたクインシーもやっとのことで火災現場から脱出する。この辺りから、ミナ・ハーカーが主たる人物となるのであるが、その理由は本編以前の物語として書かれていて、ミナ・ハーカーはドラキュラと不倫関係にあった(唖然)。そのために半分吸血鬼の血が流れていて、今もドラキュラのことを想っている。彼女が息子クインシーを助けるために、活躍を始めるのであるが、その手段はドラキュラとの連携である。ここでは、ドラキュラは絶対悪とは設定されていないし、むしろ歴史的にイスラムに対抗して戦った十字軍騎士が本性で、パートリの残虐無比な本性の女吸血鬼とは敵対する者として位置づけられている。そして、ミナ・ハーカーは若き日の愛あるドラキュラとの日々に戻って行き、遂にはミナも吸血鬼となる。しかし、念力(?)で息子をロンドンから呼び戻すが、息子は父親を殺したのはドラキュラだという考えに凝り固まり、ドラキュラを倒そうと動き始めるが、それ以前にパートリがドラキュラとの死闘を繰り広げることになる。結果は、読んでいただくとして、ともかくドラキュラはなんかいい吸血鬼らしいのである。本編を読むのとはかなりの印象が違う。その上、最大の落ちは、言いたいけど、言わない。そして、最後はなんと、或る人物が船に乗り、アメリカに向かうのであるが、その船の名が「タイタニック」。

 なんだ、なんだの新ドラキュラではある。

魔女:加藤恵子