魔女の本領
赤ずきんちゃんの自由論…

マンハッタンの赤ずきん

『マンハッタンの赤ずきんちゃん』カルメン・マルティン・ガイテ


ガイテはスペインの現代女流作家で国民的な賞も受賞している、小説、エッセイなど多数を発表しているが、相変わらずアメリカ文学以外は日本では知られていない。

この作品も、児童文学と言うわけではないが、子どもにも十分楽しめる作品になっている。題名通り、「赤ずきん」を下敷きに、現代のアメリカのマンハッタンを舞台にしている。ブルックリンのお粗末な14階に住む早熟な少女、サラ・アレンの母親はイチゴ・ケーキを毎日作り、天下一品だと自負しているが、実はそのレシピは、レベッカおばあちゃんの秘密のレシピをまねただけであることをアレンは知ってしまう。レベッカおばあちゃんは自立心旺盛で、昔は舞台女優だったらしい。サラは本好きの子どもでレベッカおばあちゃんの恋人は「本の王国」という本屋である。サラはだから、『ロビンソン・クルーソー』も『不思議の国のアリス』ももちろん『赤ずきん』の本も理解している。サラがそれらの本から学んだのは自由ということなのである。本を読みながらサラは言葉遊びを覚え、「ミランフ」という呪文を考えつく。サラとお母さんはイチゴ・ケーキを持って毎週末にはおばあちゃんのところへ行くのだが、サラとおばあちゃんは秘密の約束をしていて、ドアの鍵の場所も、秘密の箱の鍵の在り処も知らされている。そこにイチゴのケーキの作り方が入っている。お母さんの自慢は嘘だと気が付いてしまう。サラの誕生日を中華料理店で開いている時、父親の兄弟の一人が交通事故で死んでしまい、両親がシカゴに出掛けることになり、独りになったサラの冒険が始まる。

突然、ここに正体不明のミス・ルナティックが登場する。襤褸をまとい、真っ白な長い髪を腰までたらし、乳母車を引いている。なぜか彼女はマンハッタンを歩き回り、老人の話し相手になり、みんなの身の上話を聞いてやり、喧嘩を仲裁してしまう。年は175歳で、フランスなまりの英語を話し、予知能力もあるらしい。これに眼をつけたハーレムの警部が雇おうとして、こっぴどく拒否される。彼女も自由と関係するらしい。そんな時、ケーキ王『甘い狼』の大金持エドガー・ウルフが自分の作るイチゴ・ケーキの味に自信が持てずに悩み、孤独に悩み、セントラル・パークをうろついていると、ミス・ルナティックと遭遇し、悩みを聞いてもらい、元気になり、自分のケーキの形をした豪邸に招待するが、ルナティックは現れない。

両親が居ない終末にサラはいつものように赤い頭巾と長靴姿で、バスケットにはイチゴ・ケーキを入れておばあちゃんのところへ初めて一人で行くのだが、途中で地下鉄を降りてしまい、途方に暮れているところで、ミス・ルナティックに助けられる。サラも初めてできた本物の友だちで「自由だ、自由だ」と叫んでしまう。なぜか?サラは一瞬のうちにミス・ルナティックは自由の女神の「本物」なのだと言うことが分かってしまうからである。サラはミス・ルナティックからマンホールを開ける不思議なコインをもらう。セントラルパークでぼんやりしていたサラは突然男の人に声をかけられるが、それはウルフ氏で、かれはサラがもっていたイチゴケーキを一切れもらって、自分の探していた味はこれだと思い、それを教えてもらうために、サラにおばあちゃんの所へ一緒に行くことになる。ウルフ氏はサラを豪華なリムジンに乗せて、マンハッタンを走らせ、自分は先回りして、おばあちゃんの所へ行き、昔の女優だったおばあちゃんと仲良くダンスをしたりしている。あとからついたサラは見てはいけないものを見たように思い、こっそり一人で抜け出して、ミス・ルナティックにもらったコインと付属の書きつけを開いて見ると、そこにはイタリア、ルネサンスの魔術師ピコ・ミランドラの言葉が書いてあり、コインをマンホールに差し込んで「ミランフ」と叫ぶと、サラは吸い込まれて、どうやら自由の女神の所へ運ばれて行ったようである。

ミス・ルナティックの教訓:「秘密を打ち明けた相手には、自分の自由を与えたことになる」

そうです、秘密を打ち明けて、みんな仲間になって、自由を共有しよう!!

魔女:加藤恵子