情熱の本箱
勇気あるジャーナリストは、原発問題をどう捉え、どう行動したか:情熱の本箱(22)

原発の是非

勇気あるジャーナリストは、原発問題をどう捉え、どう行動したか


情熱的読書人間・榎戸 誠

『原発の是非を問うことと、わたしたちがやるべきこと』(堀 潤 著、クレヨンハウス)は、80ページ足らずの小冊子であるが、私の心に鋭く突き刺さった。

何が突き刺さったのか。3つある。第1の矢は、原発はどうあるべきか、原発報道はどうあるべきか、ということ。第2の矢は、ジャーナリストはどうあるべきか、ジャーナリストの勇気とは何か、ということ。第3の矢は、日本の公共放送と海外のそれとの決定的な違いは何か、ということ。

著者の堀潤は、テレビ番組「ニュースウオッチ9」などで活躍したNHKの若手アナウンサーであるが、福島原発問題に鋭く迫った自主制作ドキュメンタリー映画『変身』を作ったということで、2013年4月に退職に追い込まれた人物である。

「(2011年3月11日の東日本大震災直後)当時、大手メディアに何が起きていたかというと、原発災害の情報に関しては、『パニックを引き起こさない』ことが暗黙の了解になっていました。そのため、情報発信はより慎重に慎重に抑制されて、放送する内容が決められていました」。その結果、「被害に遭ったひとたちだけが置き去りになっていく」ことになったのである。

当時、堀は何をしていたのか。「ぼくはツイッターの、NHKの公式アカウントをもっていたので、震災の当日から、テレビやラジオが届かないひと向けに発信をはじめました」。言わば、NHKに入ってきても公式には発表されない、発表できない情報を「横流し」したのである。

当時の原子力安全委員会や原子力安全保安院の取材を通じて、堀は、福島原発は「津波じゃなくて、そもそも地震で壊れてたんじゃないの?」という疑問を抱く。やがて、事故原因が地震だという確証を掴むが、ニュースとして公表されないので、ツイッターで発信する。ところが、この行動にNHK上層部からストップがかかる。「しかし、一方でNHKには、こころあるディレクターや記者たち、そして上層部にさえ、ぼくを応援してくれるひとたちがいました」。

日本の情報公開制度がいかに遅れているか。「(事故を起こしたサンオノフレ原発の再稼働問題で)NRC(アメリカの原子力規制委員会)は非常に細かく地域を区割りして、パブリックミーティング(公聴会)を開くんです。会場をいつもNRCが借りて、そこに電力会社・メーカー・地元住民・原発で働いているワーカー、そして原発などに対して批判的な環境問題の市民団体などをすべて招き、さらにインターネット中継をして、その場に参加できないひとたちにはインターネットを使って参加できるようにしたミーティングを、月に1〜2回くらいの割合で、サンオノフレに関係する自治体で開いていくのです。情報はフルオープンです。とくに感心したのは、パブリックミーティグでは、市民のみなさんから非常にクリティカルな質問が、行政側・電力会社側に投げかけられることです。すると電力会社側は必死になって答えるわけです。数時間にわたって、侃々諤々とやりあうんです。NRCが立派なのは、そこで出た課題を持ち帰って精査すること」。

「アメリカ合衆国に行って、サノオノフレ原発などのことをツイッターでいろいろ書いていると、NHK上層部からの締めつけはさらに厳しくなっていきました」。そして、ドキュメンタリー映画『変身』の制作・発表がNHKを強く刺激し、「ツイッターでニュースの過程などを明らかにすることは、内部情報の漏洩だということで、懲戒処分にしてしまえ」ということになり、堀の退職に至る。

本書で、骨のあるジャーナリスト・堀の考え方と行動の詳細を知って、私よりずっと年下であるが、堀潤は私の真に尊敬する人物の一人となった。