魔女の本領
作者本人がだいぶ入れ込んでいる…

傾国子女

『傾国子女』島田雅彦


腰巻に『好色一代女トゥディ』なる字が書かれているが、どうも読みながら、感じた違和感は何なのだろうか。美貌の主人公の一生を描いているのだが、対男という軸が全て性的に対峙されていて、ろくでもない男をたたきのめす手段が性的な手段である。金で体を高く買わせる。また子供を欲しがる政財界の黒幕に子供を生むという契約で身を高く売るが、その前に身を任せたヤクザ男の子供を秘密を隠して生む。しかし本妻にいびり出されて子供との縁を切って出直し、美貌を武器に銀座のナンバーワンホステスに登りつめるが、本気で愛してしまった代議士に捨てられてからはどんどん身を落とし、落ちるところはソープ嬢。その間に老舗の菓子屋の秘書をしながら、代議士と菓子屋の間の汚職がらみの金の流れを嗅ぎ出して、代議士を破滅に追い込む。しかし、自分の生んだ子供が本家の父親の死後、家からいびり出されたことを知って復讐に長刀で母親と自分を陥れた弁護士を切りつけて刑務所行き。出所して見れば、自分の後ろ盾であった浅からざる関係のある女友だちは癌で死ぬ。それを期に平凡な結婚をして中華料理家のおばさんに収まっていたのかと思ったら、中華料理屋の店主は中国との怪しげな関係に動き始めている。そこを出たらしい主人公はなぜか若いIT関連の出世頭の男と結びついているのだが、ここで作品の冒頭に戻り主人公は自殺らしい交通事故で死んでしまうのである。時代設定は昭和天皇の死が中頃に設定されているが、エピソードは最近の事象が書き込まれている。銀座のバーでばか騒ぎするいけすかない歌舞伎役者は、自分は「将来の人間国宝だ」というのは周知の事件だし、大学の教員が主人公を愛してしまうが、主人公を愛している総理大臣の息子に嵌められて痴漢容疑で裁判に負け、ホームレスに落ちて行く。痴漢教員は極々最近の流行だ。

最近の著作にしばしば見られるブームなのか所々がゴシック文字で強調されている。しかし読者の側からすると、そこが必ずしも強く引き付けられるところでもなく、強調の必要性がいまいちわからない。女性が社会と対決するにはこの手段は有効なのか?という疑問が生じる。私は、戦闘的フェミニズム論者ではないので、その筋からの議論はできないが、性を切り売りするという点では、あまり愉快とは感じられなかった。主人公が幸せなのか?なぜ、ハッピーエンドではないのか?国を傾けた美貌の女性にもっと温かい結末を!! まぁ一度、お読みください。

魔女:加藤恵子

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