情熱の本箱
アホウドリは生涯、相手を変えない一夫一婦主義鳥だった:情熱の本箱(141)

鳥の不思議な生活

アホウドリは生涯、相手を変えない一夫一婦主義鳥だった


情熱的読書人間・榎戸 誠

『鳥の不思議な生活――ハチドリのジェットエンジン、ニワトリの三角関係、全米記憶力チャンピオンvsホシガラス』(ノア・ストリッカー著、片岡夏実訳、築地書館)は、鳥たちの不思議な生活と能力に関する最新の研究成果が目白押しである。

「知られざるハトの帰巣能力」、「ムクドリの群れの不思議」、「ヒメコンドルの並はずれた才能」、「シロフクロウの放浪癖」、「闘うハチドリ」、「闘争か逃走か――ペンギンの憂鬱」、「オウムとヒトの音楽への異常な愛情」、「ニワトリのつつき順位が崩れるとき」、「ホシガラスの驚異の記憶力」、「鏡を見るカササギ」、「ニワシドリの誘惑の美学」、「オーストラリアムシクイの利他的行動」のいずれも興味深い内容であるが、私が一番驚いたのは「アホウドリの愛は本物か」の章である。

著者がアホウドリに注目するのは、なぜか。「この世界を股にかける鳥は、夫婦が一生連れ添い、パートナーに対して驚くほど貞節をつくし、地峡上の動物でもっとも熱烈な恋愛をしているかもしれないのだ。だからこそこの鳥は、すみからすみまで感情をとらえてはなさないのだ。真の献身とはどのようなものか見るためには、アホウドリとしばらく濃密に付き合う必要がある」。

「生涯添い遂げる鳥は、大型で長生きである傾向にある。ガン、ハクチョウ、ツル、オウム、ワシ、カモメ、ペンギン・・・そしてアホウドリも。もっとも献身的な鳥のつがいでも、しばしば相手の目を盗んで浮気をする。生物学者は長年、二羽の鳥がつがいを作っていれば、それは一雌一雄――一羽のオス、一羽のメス、子どもたち――と定義できると考えていた。しかし現代のDNA鑑定は、それはまれであることを明らかにしている。ほとんどの鳥は確かに決まったつがいを作り、協力しあう。親が単独で子どもを育てるのは困難だからだ。しかし、その両親から生まれた子に、思いもよらない父親がいることがよくある。言いかえれば、母鳥はこっそり出かけては他のオスと手早く交尾を済ませてくるのだ」。一夫一婦主義の鳥は、従来考えられていたよりも、かなり少ないというのである。

それなら、アホウドリはどうなんだろう。「私たち人間のようにアホウドリは長生きで、子どもを育てるために大変な努力をする。私たちとは違い、その離婚率はゼロに近い。おそらく鳥の中で最低だろう。ゼロパーセントだ。アホウドリの前では、私たちはまるで性に奔放なように見える。アホウドリはまた、つがい外父性――ひなの父親が違うこと――の率が比較的低い。アホウドリにとって、離婚は有効な選択ではないのが普通だ。別れは数年のロスにつながる。この鳥がつがいの相手を選ぶには時間がかかるからだ。彼らは最初に正しい判断をしなければならないのだ。アホウドリはなにをするにも、慎重に行なっているのだ――特に愛にかかわることは」。ヒトもアホウドリの爪の垢を煎じて飲めば、浮気、不倫、離婚などを劇的に減らすことができるだろう。

アホウドリの長距離恋愛とは、いったいどのようなものか。「海での青年期と、続く(求愛)ダンスの日々のあいだで初めて巣を造るまでに、ワタリアホウドリは15歳になっているだろう。それ以後、アホウドリはたいてい一方が死ぬまでパートナーに貞節であり、その期間は50年におよぶこともある。アホウドリは長続きする関係を築くが、相手と共に過ごす時間は限られている。アホウドリの営巣は多くても1年おきだ。ひなを育てる過程に非常に長い時間がかかるので、毎年の夏は無理なのだ。営巣しないとき、アホウドリは外洋をとてつもない長距離・広範囲にわたって巡回する。海では、つがいは一緒にはいない。だからどんなに献身的なつがいでも、一度に数カ月を単独で過ごすのを習慣にし、相手が何をしているかを知ることもない。このような長い期間別れていたアホウドリのつがいが、落ちあう時期をどのようにして決めるのかはわかっていない。彼らは営巣が1年おきになることがあり、それが2年におよぶこともある。しかしいつも必ず、巣を造る島にほぼ同時に現れる。まるであらかじめ日にちを決めてあったかのように」。

「1年の大半、アホウドリは完全に遠距離恋愛だ。それでも彼らは海原と数十年の年月を越えて関係を保ち、不倫も離婚もほとんどない。連絡を取りあうための携帯電話もなく、一度に数カ月、海で孤独な生活を追い求める。パートナーが生きているかどうかさえ知らず、時が来たら絶海の孤島で再会することを願い、期待するだけだ。アホウドリのつがいは、ほとんど切れることのない絆を頼りに、時間と空間を超えて関係を保つのだ」。愛は時空を超えるのだ。

「この鳥は明らかに、限られた時間をできるだけ巣で一緒に過ごす。眠るときはたいてい、一羽がもう一羽の胸に頭を心地よさそうにもたせかけている。つがいはいつも隣りあって休み、時には互いの頭の繊細な羽毛を、この上なく思いやり深い恋人がやさしく愛撫するように羽づくろいする。アホウドリの漆黒の目の奥底に見えるものは、報告する人によりさまざまだ――知恵、静けさ、野性、平和、忍耐、それはそれで結構だ。だが私に見えるすべては、愛だ」。何とも羨ましい限りである。

アホウドリのことを知れば知るほど、尊敬の念が増してくる。浮気っぽいヒトがこの鳥に「アホウドリ」なんて名前を付けるなんて、実に失礼千万だ。個人的には、「相思相愛鳥」という敬称を捧げたい。