Topics
【本活体験記Vol.2】谷口忠大「ビブリオバトルって何?」 Kさんの場合

2013-10-13 15.58.15
『ビブリオバトルって何?』10月13日、夏が戻ってきたかのような日曜日、まさにこんな気持ちで京阪なにわ橋駅の構内にあるアートエリアB1に向かいました。

このお話をしてくださったのは演劇部と工学部出身のタニチュー先生(谷口忠大先生。立命館大学でロボットの言語などを研究しているそうです)。身振り手振りを交えながら、ビブリオの誕生秘話から実際の活動の話、そしてタニチュー先生がお勧めする5冊の本を織り込みながら講演は進んでいきました。

一番印象に残ったのは先生のゼミでのお話でした。ゼミで学生さん同士がまだ親しくない時期にビブリオバトルを行いました。その中で一人の女の子がF1の本を紹介したそうです。その意外な組み合わせに彼女に対しての興味がメンバーの中にうまれたんじゃないか
と思います。ビブリオバトルが終了したあと、何人かの男の子達が彼女のそばにやってきて「F1、興味あるんや。俺もやねん」等々、話が展開していったようです。

これが、ビブリオのキャッチフレーズ「人を通して本を知る。本を通して人を知る」の醍醐味なのですね。書店で開催した時もビブリオバトルの後の飲み会の方が盛り上がるそうです。そうそう、本好きは本を通して話がしたいんですよね。

タニチュー先生の講演が終わった後は、いよいよ参加者が5、6人のグループに分かれてビブリオバトルのはじまりです。さて、どんな本や人が垣間見れることになるでしょう。

******************************
――ビブリオバトルinなにわ橋――

ビブリオバトルのルール
1.1人1冊おすすめの本をもちよる。
2.発表は1人5分。
3.発表後、2~3分の質問タイム。
4.どの本が読みたくなったか投票する。→チャンプ本決定!
注意点はレジュメを用意しないこと。生の語りで楽しもう。

では、準備万端。
ビブリオバトルのはじまりです。

**********************

biblio02
〈2人で訳した時間が哲学だった〉
『Tractatus Logico-Philosophicus(論理哲学論考)』
Ludwig Wittgenstein著 Dover Publications
日本語訳でも読んでみたのですが今いち理解できず英語版を手にとりました。英語訳は一つのまとまりが短く1行ずつ積み重ねていくスタイル。この方が理解できそうだと思い、友達と1年かけて訳して読み解いていきました。わかったつもりにならない、その濃密な
時間そのものが哲学をしているひとときでした。
「なぜ言葉が人に、世界に通じるのか」という疑問を持っている人が読むと何かがみえてくる1冊です。
(MMさん)
tractatus-logico-philosophicus
〈なぜ戦争で人は人を殺せたのか〉
『敵の顔』サム・キーン著 柏書房
人が人を殺すということには無理があるはずなのに、なぜ戦争では人を殺すことができたのだろう、そんな疑問に答えてくれた本です。
ページをめくるとプロパガンダの絵がたくさんでてきます。敵方を悪魔や猿や猛獣、虫にたとえて描く具体的な絵は、相手を人間ではないものとみなし憎悪の物語をつくりあげ正当化していきます。社会が操作する憎しみという感情。最後の1ページで呆然となりました。
(NMさん)

41b1rwgZyPL._SL500_AA300_

〈身の丈にあった仏教〉
『ボクは坊さん。』白川密成著 ミシマ社
24歳で愛媛県のこじんまりしたお寺の住職になったお坊さん1年生の奮闘記です。まっすぐにお坊さんとして向き合う密成さんは、ある時、はじめて戒名をつけることになります。亡くなった方の「人と成り」にぴったりの戒名を親族に説明した時、その場は真摯か
つおだやかな空間につつまれていきます。密成さんの奮闘ぶりは、仏教をぐっと身近なものにしてくれました。
(KTさん)

bousan_big

〈世界の裂け目をみた〉
『わらの女』カトリーヌ・アルレー著 東京創元社
1950年代に発表されたものですが、今読んでもまったく遜色がなく、よく出来た小説なんてものを越えています。ミステリーなので詳しくは語れないのですが、この本を読んだ時、感動したというのではなく、足場を崩していくような戦慄が走りました。カトリーヌ・アルレーはこの小説を書いて、世界の裂け目をみてしまったんじゃないかと思います。
(HJさん)

51RF1S9TT2L._SL500_AA300_

〈みる現代詩がつきつける〉
『悪人』束芋著 朝日新聞出版
朝日新聞で連載していた吉田修一の『悪人』の挿絵を現代アーティストの束芋が描いていました。その挿絵を1冊の本に編集し直したものです。束芋は舌、口、臓器などをクローズアップし、擬人化させて作品で知られています。その絵に小説の中の言葉が一行書かれ
ています。小説を読んでいる時には気にならなかった言葉は、まるで現代詩を読んでいるような気持ちになり「あなたならどう思う?」とページを繰るたびに突き付けられました。
(FMさん)

51RTyCu4ejL._SL500_AA300_

〈目にみえるもの みえないもの〉
『』宮本輝著 講談社
編集者の主人公が伝統の発酵食品を残す一冊の本をつくっていく過程で発酵食品の時間の流れと自分の人生の時間の流れを重ねていきます。発酵食品を通して「時間」という私達がなくしたものを取り戻すこと、そしてで酵素のように見えていないものが無数にあり、目に見えているものはほんの一部だということを感じました。読むと一見変わったタイトルもしっくりきます。
(MKさん)

ed77c5abb8545739d6018a7fb7bc4a8f

***********
以上、6作品が出そろいました。話す方も聴く方も真剣そのもの。
なごやかでありつつも集中した濃密な時間がながれました。

投票では「どの本も読みたい」と皆、かなり悩みましたが、僅差で「わらの女」に決定。終わるのがなごりおしく、紹介してくれた本を読んでまた話を展開させたい、そんな気持ちになったビブリオバトルでした。