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【本活体験記Vol.4】二村知子「本の力を信じてる」 Yさんの場合

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11月10日(日)、あいにくの曇り空&小雨でしたが、京阪電鉄なにわ橋のアートスペースB1にて、本活 vol.3 隆祥館書店店長「カリスマ書店員」の二村知子さんをお招きして、「本の力を信じてる」をテーマにした講演が開催されました。

演台に置かれた小さな「ほんばこ」に並んだ五冊の本。その本一冊一冊に付箋がびっしりと貼られています。

参加者の皆さんは「本の力を信じてる」とはどういうことなのか、書店はこれからどうやって生き残っていくのか、全部「Amazon」になってしまっていいのか。色々と考えながら、今か今かと二村さんを待っています。

そこへ、背のすらりとした姿の女性が颯爽と登場します。元シンクロナイズドスイミング日本代表でもある二村知子さん。マイクを使わず、書店員としてお客さんと向き合うように話し始めます。

まず、隆祥館書店について。谷町六丁目にある15坪ほどの小さな本屋さんです。長堀通りに面した、住宅地とオフィス街の真ん中に建っていて、父親が創業して50年以上も営業されています。通常の書店と違い、店長の二村さん自ら本を勧めたりして、お客さんと本との新しい出会いを演出します。平台や棚をうまく使って、色んな文脈やテーマでコーナーを作り、店内のどこを見てもハッとさせられる発見があるようにできています。書店の経営難や閉店が多い中、隆祥館書店はお客さんの途絶えることのない話題の本屋さんとして数々のメディアにも取り上げられています。

二村さんが持つ「本への思い」とはそもそもどこからはじまったのか。それは、二村さんの人生において、生きる希望を失った時期に出会った「星野富弘『愛、深き淵より。』」という本。この本から、絶望的な障害を負っても、人は生きがいを得て、前向きに生きていくことができる勇気を、二村さんは得ることができました。

本の力って、こんなにも素晴らしい。

本を読むことは、処世術を学べるし、語彙力もつけてくれます。一歩引いて考える力や、向上心を持ち続けたり、自分を変えるきっかけになります。

書店とは、顧客を満足させることを常に念頭に置いてお客様と向き合い、寄り添って、さらには著者とお客様との出会いの場を提供すること。そうして、人が本の素晴らしさをあらためて知ることができること。それが二村さんの「本屋さんの目指す形」なのです。

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次に、「上方」というテーマで、二村さんは5冊の本を選ばれました。

どの本も驚くほどの数の付箋が貼られています。「ここを人に読んで欲しい」と思える箇所に貼られるそうです。

手塚治虫『 ガラスの地球を救え』がまず一冊目でした。人類は地球の歴史の長さに比べればまだ新参者で、何億年という時間のなかのほんのさっき現れてきたばかりの存在に過ぎないのに、まるで地球の支配者のように振る舞う人間の姿を暴いた物語です。

細見周『熊取六人組』が二冊目です。京都大学の自由な学風のなかで、原子力の安全について研究している6人の研究者(海老沢徹、小林圭二、瀬尾健、川野真治、小出裕章、今中哲二)が原発の利用に警鐘を鳴らすが、日本の報道はスポンサーが電力関係なので、原子力発電所についての真実やずさんな管理の実態など、あきらかにされない。だから「本を読まなきゃわからない」のだ。「読んだらわかる」かもしれない。それが読書だと二村さんは力を込めて述べられます。本だけは証拠が残っている。研究書や記録が大学図書館にあったりする。

京都をはじめ、関西は反骨精神があります。大阪はケチと言われるけれども、そこには本物を見極めたいという心があるのだと、二村さんの上方論も展開されます。

鎌田實『○に近い△を生きる』は三冊目。赤字だらけの病院にわざわざ就職して、長野で働いた鎌田さん。高度な医療や機器ではなくて、声をかけたり、塩分の多い食生活を改善したり、患者と寄り添う医療によって長野県を日本一の長寿の県にしてみせました。

『○に近い△を生きる』は読んだら人に優しくなれる本だと二村さんは言います。

「書店の経営やいろんなトラブルで、ほんとうに辛い時はあるけれども、「本屋では小さくて△」かもしれないけれども、「本で心を届けるということでは○」なのだと思ってやっています」

「鎌田さんは、良い仕事をするには「出る杭」にならないといけないのだ、とおっしゃっていて、その言葉がとても励みになった」

オダサク倶楽部『織田作之助』は4冊目。織田作之助の生誕百年のガイド本で、「大阪が好きってわけじゃない。だけれど、他が嫌いだから大阪が好きなんだ」。それがオダサクの大阪。オダサク倶楽部の会員の方も会場にいらっしゃいました。

本屋図鑑編集部『本屋図鑑』は最後の本。Amazonの興隆とともに、小さな町の本屋さんが凄まじい勢いでなくなっていっている。小さな本屋さんをもっと見ていって欲しい。本棚にあるからこそ見つけることのできる本との出会いもある。

「私は贈りたい本の、特に読んで欲しい部分なんかに付箋をつけている。メッセージカードや綺麗な付箋で本に貼ったら、少し違う「本と人の出会い」が演出できるんじゃないかなと思います。皆さんもぜひやってみて下さい」二村さんは締めくくりました。

それから、質疑応答がおこなわれました。

Q:テレビでシンクロ日本代表とお聞きましたが、練習はきつかったですか? 書店を経営するのに、何か共通するものはありますか?

A:I監督がとにかく怖かった。できるまで帰らせてくれない。本屋が窮地のとき、I監督のしごきを思い出して、頑張ってる。潜水のあの苦しさが生き残れる力の一つになっているかしら。

Q:ある人をゲストに招く時、どういう風に段取りをしたのですか。人脈でしょうか、他に何かあるのでしょうか。

A:最初はすべて人脈頼りでした。お客さんの要望に応える形で、ゲストを招いてました。つい最近は取次から「この人は」と勧められるようになりました。六十回くらい今まで講演会は開いていて、美容・健康ジャンルが結構人気です。ホリエモンをゲストに呼ぶ時も、ちゃんとテレビ報道のイメージに流されず、会いに行って確かめましたね。

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