魔女の本領
2012年最後で最大のノンフィクション

 

「キャパの十字架」沢木耕太郎:文藝春秋 2013年 01月号


驚愕のノンフィクションである。多分世界が驚くこと間違いなしである。キャパを世界に知らしめた有名な一枚「崩れ落ちる兵士」。スペイン内戦の戦場で共和軍兵士の銃撃され崩れ落ちる一瞬を捉え、あまりにも有名な写真である。この写真については、なんか嘘くさいという印象や、やらせではないかと言う論文も出たいたことは知っていた。なぜなら、キャパがこの撮影場所や状況について書き残したものが皆無だからである。しかし、スペイン内戦を論じるとき必ず引き合いに出される、ゲルニカとこの写真なのである。つまり共和派のイコンとなっているために、詳細な実証がなされていなかった。沢木は長年にわたってこの点への関心を深め、実に緻密な証拠を集め、実験し、現地に足を運び、驚愕の事実に辿りつくのである。すなわち、写真が撮られた場所を今まで言われていた場所ではないことを突き止め、崩れ落ちる兵士は銃弾に倒れたのではない、しかしやらせで撮ったのではなく、偶然に撮られたもので、撮影の場には2台のカメラがあり、写真機はライカではなく、ローライフレックスである。そのことから導き出された結論は「崩れ落ちる兵士」を撮影したのはキャパの恋人でスペインに同道していたゲルダの作品である。この事をキャパはなぜ公表しなかったのかは一言では言えないだろう。この当時キャパとゲルダはいわば同志として動いていた。それ故、キャパにとっては協同の作品であると考えていた可能性がある。ゲルダは自身の作品を広く公表する前にスペインで事故死してしまったために、問題の一枚が世界的に広まるのをみることも、自分の作品であることを主張することもないままに亡くなっていたからである。あまりにも有名な一枚になりキャパは秘密を守ったまま、その後インドシナで地雷を踏んで亡くなってしまうのである。

しかし、沢木はキャパをおとしめようとしてこの作品は書かれたものではない。キャパが写真と言うものが真実とは異なる文脈で語られてゆくのを見て、戦争の真実を求めて前線へ前線へ出て行ったキャパの背負った十字架を心を込めて書いているのである。単行本の計画もあるようですが、今年最後の最大のノンフィクションです。読まずに年越しはなしである。読まれたし。

魔女:加藤恵子