京阪電車主催の鉄道芸術祭「松岡正剛プロデュース 上方遊歩46景~言葉・本・名物による展覧会~」が始まり、その中で行われるイベントのひとつ、ほんばこや企画による読者力養成ワークショップ「本活(ほんかつ)」がスタートしました!
10月13日(日)の第一回目は、ビブリオバトルの発案者、谷口忠大さん(タニチュー先生)を迎えた「ビブリオバトルって何?」でした。
みなさんはビブリオバトルってご存じでしたか?
私はよく行く近所の図書館で定期的に開催されているのを見て知りました。興味をひかれつつも、「見ていって下さい」と声をかけられたこともありましたが、参戦する機会を逃していました。
それが今回、発案者ご本人から教えてもらえる!ということなので、これを逃す手はない!といそいそと参加したのでした。
ワークショップは14時半から3時間で、はじめの1時間がタニチュー先生の講演、その後、美味しいスイーツ付き♪の休憩をはさんで、ビブリオバトルが行われました。
開演前、現場に到着したタニチュー先生は、会場が駅地下のオープンスペースだと知って、少し、いえ、見るからに戸惑われていましたが、講演が始まるや端正な話しぶりと、時々見せるシャイな表情で女性9割の参加者をひき込みました。
・ビブリオバトル公式ルール
・ゲーミフィケーション
・コミュニケーションってなんですか?
・「場所」論
・「小鳥の歌からヒトの言葉へ」
など、ビブリオバトルという誰もが参加できるゲームを入口にして、ロボットと人間のコミュニケーションという情報工学へと、スルスルかつグイグイと話が進んでいきました。
へぇ~と思ったのは、本好きはみんな自分がマイノリティだと思っている、ということや、アイボとテレビのリモコンはコミュニケーションから見たら同じ仕組みだということ。
1歳の息子がリモコン好きなのは、アイボを可愛がるのと同じだったんだ!と目から鱗が落ちました。
“機械的な知”と“揺らぎのある知”の融合。ビブリオバトルはそういう環境から誕生したことがよくわかりました。
そして、いよいよ実戦へ。
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2チームに分かれてビブリオバトルを行いました!
1チーム6人。
改めて公式ルールを確認します。
1)発表する人自身が選んだ本を紹介する
2)一人5分間で本を紹介する(長くても短くてもダメ)
3)それぞれの発表の後にディスカッションを2~3分行う
4)参加者が一票をもち、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする
参加者の一人が持っていたiPadでタイマーをセットしてくれました。
一人目Tさん
『戒厳令の夜』五木寛之 1976年 新潮社
「その年、4人のパブロが死んだ」というナレーションと音楽で始まるラジオドラマを中学生の頃に聴いて、ずっと記憶に残っていたものの、本を買ったのは40歳をこえてからだったとのこと。物語は、スペインとチリのクーデター、九州の山の民の物語が連ねられていて、Tさんは、「世界は全部地下でつながっているんじゃないか?」
と思って衝撃を受けたと話されました。
一方、タニチュー先生の講演を聴いて、一票を持つバトル相手の興味のことを考えていなかったこと、世代差のあることなど、選本を間違えたかもとおっしゃっていました。
二人目Kさん
『生きるコント2』大宮エリー 2009年 文春文庫
テレビ番組で著者を知り、その司会っぷりを見て人柄に一目ぼれしてこの本を手に取ったKさん。この本は、気楽でバカバカしい中に、恥ずかしい経験を共有できるところがあり、友達になれそうだと思った最初の印象どおりだったと言います。特にKさんの今の気持ちに添う本で、疲れた時、ふと読みたくなるそうです。
ここでタイマーを見ると、あと1分残っています。そこで、著者のお母さんが面白い、と続けられました。けんかを吹っかけてくることで著者の窮地を救うそうです。親心にほろり。
ディスカッションタイムでは、「いちばん面白かった部分は?」と聞かれ、著者がリオのカーニバルに行ったエピソードを披露。貝のブラジャーで実際に町を歩いて、現地の人に引かれまくったのだそうです。チーム内爆笑でした。
三人目Sさん
『統計学が最強の学問である』西内啓 2013年 ダイヤモンド社
「100のイイネより、1の参加を!」という本イベント企画者の大音さんの言葉に打たれて参加されたとのこと。美術館に行くのが好きなSさんは、今日の講演を聞いて、言葉のない絵から感じることと、ビブリオバトルから得られることが似ていると思ったと、今日のイベント全体の感想から話されました。
そして、本の紹介に入ると、まずは自分が勉強してきた応用情報学から選ぼうと考えた、統計学を身近に感じてもらいたいと思ったためだ、と話してくれました。
ディスカッションタイムでは、統計学で何ができるの?と問われ、信頼の裏づけになると答えられました。論理ではない有効な方法だとも。統計を使うことでシミュレーションできると説明されました。
四人目Mさん
『詩ふたつ』長田弘・著 グスタフ・クリムト・画 2010年 クレヨンハウス
長田とクリムトの合作のようになっている本書。妻を亡くした長田が彼女に会いに行くかのような弔いの詩だとのこと。Mさんがこの本との出会ったのは、ISIS編集学校のプログラム「知文術」で別の人が本書を紹介していて、長田弘のこともこの時知ったそうです。誰しもが生まれて死んでいく中で、身近な人を喪う。その時の助けになるといいと思って紹介しようと思ったとおっしゃいました。また、詩だけでなく絵も良く、“あの世”的な絵でなく生命力のある絵だとのこと。さらに、音読すると如実に分かってくるとも。経験者からの励ましのようだと締めくくられました。
ディスカッションタイムでは、一番好きな詩は?と問われ、「ことばってなんだと思う?」という一節を挙げてくれました。
五人目Uさん
『点滴ボール 生き抜くという旗印』岩崎航・著 齋藤陽道・写真 2013年 ナナロク社
Uさんがこの本を知ったのは、会社の嫌いな上司から熱く紹介されたからだそうですが、反発心から絶対に読もうと思わなかったそうです。ところが、最近、自分が人間ドックである病気が疑われ、それはUさんの母親も罹ったことがあり、以前より注意するよう言わ
れていたそうです。Uさんは人間ドックの結果のことを母に言うことができずに、精密検査まで一週間一人で抱えていたそうです。その時、本屋でこの本を見つけてふいに立ち読みしたとのことでした。
著者は3歳で筋ジストロフィーを発症して、17歳で生きることに絶望する。しかし、現在37歳でこの本を綴っている。病気の子供をもつ著者の母の言葉が、Uさんの母と重なります。ギリギリのところで生きている人の言葉の重みがある、とUさんはおっしゃいました。
六人目Y(当レポート担当者)
『はらぺこあおむし』エリック・カール作・絵 もりひさし訳 1976年 偕成社
Yが本書に出会ったのは、子供の本を探していた時のこと。絵本コーナーで平積みされていたので目に付いたのでしたが、後で知ったら非常に有名な本でした。バトルの場で尋ねたら、みなさんご存じでした。
ストーリーは青虫が蝶になるまでのことですが、お腹を空かせた青虫がいろんなごちそうを食べる間が、仕掛け絵本になっています。
Yはある時、最後のページに描かれているいろんな色の入った蝶の翅は、これまでのごちそうの色が全部入っているのではないかと思いました。そう思うと、蝶の翅が、子供とこの本を読んでいた時間とも重なってきました。ページがまっすぐには進まず、途中で別のことをやりはじめたりすることも多いいろんなことが詰まった時間が、きれいな蝶になるんだと思ったとき、この絵本の奥深さに感動しました。…という紹介をさせていただきました。
以上、6冊が今回の紹介本でした。
投票の結果、今回のチャンプ本は・・・Mさんが紹介してくださった『詩ふたつ』に決定しました!おめでとうございます!
紹介の中でよく聞かれた言葉は、本はその時の環境や精神状態とダイレクトに繋がっている、というものでした。今回、参加者のみなさん誰もが借り物でない自分の言葉で語られたのは、本を読むという行為が自分自身のあらわれなのだということを教えてくれるもの
だったと思いました。
ビブリオバトルを通じて、楽しく深い充実の3時間を過ごすことができました。
次回の読者力養成ワークショップ「本活」は、11月4日(月・休)14時半からです。能楽師の安田登さんを迎えて、「声と身体感覚の読書とは?」で講演とワークショップを行います。