魔女の本領
卸売市場の大切さ…

築地移転

『築地移転の闇をひらく』


緊急を要する案件「築地市場」の豊洲移転問題に対する都民、国民への問題の所在、こうなった経緯、そしてこうすべきだという提案も示されている貴重な一冊を紹介することにした。

都知事選を契機に突然マスコミに怒涛のように溢れた築地移転問題、と言うよりは豊洲新市場の数々の問題点。本来昨年11月に移転するはずであったが新知事小池氏の決断でいったん中断しているが、そのニュースの多くは豊洲新市場の汚染と建物の問題点が前面に出ており、都民や国民の耳目を集めることとなった。その点では、危機一髪のところで止められた巨大公共事業という歴史的な判断であるかもしれない。もちろん、結論が出たわけではないのだが、本書を読めば、そもそも移転問題がどこから起きて来たのかが詳細に書かれていて、その点でも単なる反対のためのアジテーションの本でないことがわかる。しかし、巨大な闇を相手にここまで闘いを継続してこられた中澤氏、闇をあばくために専門的知識を真の意味での専門家として、誠実に果たされた水谷氏、そして築地問題を政治的に表面化させるとために都知事選(なんだか未だによく分からない経緯で候補者から降りざるを得なかった宇都宮氏ではある)の政策課題にされていた宇都宮氏による押し上げが、大きな歯車が音をたてて築地市場を押しつぶすことを止めたのである。

本書を読むと、大騒ぎされた汚染問題はもとをただせば東京ガスの跡地であり、東京ガス自身が汚染を認識し、その汚染対策もせざるを得ない程の土地を東京都がなぜもっとも汚染について敏感であるべき食品を扱う市場として購入したのか。そのあたりの奇怪さが浮き出て来る。この点を更に深堀すれば、なぜ築地市場を移転すると決めなければならなかったのという点に集約される。表面的には汚い狭い危険とか言われているが、そのどれもが今になってよく見なおしてみれば、築地市場を修理、改善すれば全く問題ないばかりか、じつはその動きがありながら、なぜか突然中断されたまま放置され、その先に突然の豊洲移転が降って来たということのようだ。

中澤氏の書かれた部分をよむと、移転計画にかかわる当事者である市場関係者の多くが、意見を聴取されたり、何が決められたり、どのような図面が引かれたりしていったのか全く知らなかったばかりでなく、卸、仲卸等の反対意見も一切封じられていた。更に問題は東京都の担当職員が市場の機能について全く知らず、ただ集約型の市場を近代化=機能的としか考えていないどころか、巨大な箱モノをつくれば、どうにでもなるとしか考えていない思想性の欠如した計画立案であったとおもわれるのである。それに加えて、どうしてもこの移転計画のどす黒さを感じるのは、実は築地市場の跡地に目を付けていた誰かの黒い手が、何が何でも築地市場を更地にしてそこへ何らかの付加価値をつけることで莫大な利潤を得られることを、濡れ手で粟の計算が絶対にあったのだと言うことが読み取れるのだ。そのために、しゃにむに進めた豊洲がどんなに汚染されていようが、やみくもに進める。その過程は水谷氏の書かれた部分で明らかにされているが、東京都がなぜ売主である東京ガスに汚染除去の責任を完全に果たさせることなく、地価より大幅に高い価格で土地の購入をしたのか。この不自然な商取引から始まり東京都の関係者たちが次々と不自然な判断を繰り返し、最終的には巨大建造物に数々の欠陥が指摘されるに至っている。これは一人の人が独断的に行なった行為ではないかもしれないが、これほどまでに、積み重なった不正行為には、人間の悪徳がまかりとおる現代とは、如何なる時代なのかと思ってしまう。ひとつ私の笑える失敗を書いてみる。ある時、つい若いことを主張したくなって、7歳サバを読んだ。ところがその嘘を維持するために、次々に嘘を重ねないと保てなくなったのだ。嘘は補強しないと、ばれるのだ。嘘は絶対ばれるものだ。これはもしかしたら正直であることの王道なのかもしれない。東京都の職員はこの嘘の連鎖を繰り返した。一部で専門家という人々もこれに加担した。しかし、闇に光がさしてくれば、いやがうえにも怪しい部分は怪しさが際立つ。テレビに映し出されたわけのわからない地下空間。アリスが落ちた穴の中ではない。この空間で夢は育まれない。ただただ関係者が「自分は知らない、関係ない」と言い続けていたが、どうやら東京都側がガランドウを主導したようだが、何故かはたぶん判明しないだろう。その結果建物自体の安全性はさらに危くなっている。

どこまで書いても書ききれないが、それは貴重な証言となっている本書を読んでいただくとして、中澤さんが常に言われている重要なことを書いておきたい。それは卸売市場の大切さという点である。正月など卸の現場が映し出されることもあるが、いったいあそこで何が実現しているかを強調しておきたい。それは公正な価格の決定と明朗な取引、それが「競り」という日本独自の流通の中核システムなのだというてんである。しかし、政府は規制緩和を名目にこの制度を廃止しようとしている。現実にはすでに1999年に競りは必ずしも必要ではなくなっている。政府が狙うのは卸売市場法の廃止であるが、現在有効に機能している「競り」を全廃し、卸売市場をなくした場合、どうなるか?私たちは食の安全、品質の保全、価格の適正化は崩壊するだろう。巨大資本が便利性だけで提供される魚が消費者にもっともすぐれた物になり得るとはまず言えないことは明らかだろう。そして現行の制度が実は最も効率的で大手から中小まで平等に扱われるという優れて民主的なシステムであることを今こそ確認したい。汚染問題に端を発した問題は民主主の根幹はそこで働く者の意見の集約からはじまるべきであり、彼らが果たしている労働の貴重さは国民の財産であり、更には思いもかけず狭い汚い危険といわれた築地市場は労働環境としてもお互いを思いやりながらの商売ができていて、建築物としても素敵なものであるという証明となった。

さいごに、これも中澤氏の日ごろの発言を最後に挙げておきたい。豊洲市場が無駄金使った施設として放棄するのではなく、都民は2つの施設を持ったのであるから、両方有効利用するようにみんなで考えようという提案に拍手しようではないか。

日本の宝であり、未来へ手渡すべき貴重な生きた現場、築地市場を守ろう。

魔女:加藤恵子