『魔の系譜』谷川健一
◎「ほ」の箱 ー細道ー ◎
その細道を怨念伝いにタタリくる
魔は間であり、真である。山の間の微かな割れ目を伝うほどに細く嫋々と、日本人の古層を貫き通してきた他界と異界についての論考集。冒頭には二・二六事件の首謀者として死刑を待つ磯辺浅一の獄中手記が引かれ、高官への「ノロヒ」が「優秀無敵なる悪鬼になる」ための祈りへと変わりゆく様が刻印される。政治犯だけではない。兄弟の骨肉の争い、屍姦したいほどの執着と黄泉からの逃走、農耕社会の中でくりかえされる死と復活と自然の災厄。聖なる動物と山間民、人形と仮面と魂、飢饉と地霊と転生譚。折口学と柳田学の終わった地点から、渓流伝いの水音が流れて来る。(大音)
【五感連想】