湧き水
制御不能を恋ごころと呼ぶ

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『夜叉ケ池』泉鏡花

夜叉ケ池は、福井と岐阜の県境に実在する。標高1099m、ブナの原生林に囲まれ、龍神伝説を伝える幽玄な池だ。晃と百合が人目を忍んで住まうのは、池からの清水が湧く琴弾谷。「龍神に暴れない約束を思い出させる」ために、晃は一日三度鐘を撞く。世間は日照りできゅうきゅう騒いでいるが、互いの身を思い合う二人には、夕顔の花の露さえあれば沢山だ…。
新婚の閨を覗くような、不埒きわまる場面で幕を明ける泉鏡花の傑作戯曲。鏡花がお得意の「お化け話」と身も世もない恋ごころを相乗させたのだから、おもしろくないわけがない。納戸の灯が消え月あかりばかりの頃ともなると、鯉、蟹、竹傘が喋り出し、鯰が剣ケ峰千蛇ケ池と三国ケ岳夜叉ケ池を結ぶ文の使者となる。
晃の鐘の霊験を鼻であしらった村人たちは、雨乞いのため掌を返して、百合を人身御供に捧げようとする。「神にも仏にも恋は売らん」と絶叫する萩原伯爵三男晃、「人の生命のどうなろうと、それを私が知る事か!……恋には我身の生命も要らぬ」と逸る白雪姫。まこと、恋も湧き水も、喉を潤す渕にもなれば暴れて人も里をも呑み込む、天からの賜り物・借り物に違いない。(oTo)

【五感連想】