『愛と笑いの夜』ヘンリー・ミラー
『愛と笑いの夜』のことを知ったのはサニーデイ・サービスに同じ名前のアルバムがあったからで、1997年の冬はそればかり聴いて過ごした。上京して4年目。就職したくないというだけの理由で大学院に進むことになっていた。30代に入って1・2年した頃、古本屋で福武文庫の薄い1冊を見つけた。吉行淳之介が訳していた。仕事を終えて終電近くに帰ってくると、誰かに電話やメールをすることもなく布団の中に潜り込んで数ページずつ読んだ。放浪のヘンリー・ミラーは饒舌に場末の何もない日々を語って、僕はそれを無言で読んだ。どちらの側であれ、そこには愛も笑いもなかった。漠然とした期待を抱えるだけの、果てしなく続く夜だけがあった。(おかむー)
【五感連想】
- 食べたくなるもの:安物のワイン
- 聞きたくなる音楽:気の触れた浮浪者の呟くシャンソン
- 想起する風景:パリの川沿い、貧民街の連なる辺り
- 連想するモノやコト:デラシネ、故郷喪失、根無し草
- つながる本:アナイス・ニン『愛の家のスパイ』