わしわし
「呪われた部分」を全開にする二泊三日。

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『極楽おいしい二泊三日』さとなお

一見害のないグルメ本に見えるソフトカバー。実際、ここには「日本全国15都市、旅の食事をどう充実させるか」のノウハウが詰まっている。著者が自腹で食べた店舗の中でもかなりのお気に入りばかりなのはご本人が長く続けているHPでも確認できる。お店の紹介ぶりも丁寧だし、旅人に寄り添うCS力満点でもある。料理写真には、複数のカメラマンを動員した手抜きのないつくりだ。

しかーし。正気になって考えてみたまえ。二泊三日で食べられるご飯は7チャンス。そのすべてを「わしわしに豪華に食いたい!」と夢みるバカ、それだけの強靭な胃袋と財布を持つ人間が日本中にどれだけいるというのか。しかも初出は『クレア・トラベラー』。まさか、この連載を読んで女子旅を呼びかけた強者もいるまい。百歩譲ってこの企画が実践できた者がいるとすれば、交際し始めて1年以内の可愛い彼女にオネダリされてヨダレうはうはの不倫のシャッチョーぐらいだろう。

たとえば、もっとも胃もたれの少なそうな軽井沢を例に取ってみよう(金沢や札幌や京都や長崎は、推して知るべしだ)。

1日目は昼前に塩沢湖周辺に着き、いきなりもっとも予約が取りにくいフレンチの名店「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」でランチ(Aコースのノーマルポーション8,400円。カード不可)。食後は「CAFE TERRACE 離山房」でお茶(ブレンドコーヒー650円)。夜は、薪窯のある「enboca」でピッツァとベルギービール(食べログでの平均利用金額は夜5,000〜5,999円)。
2日目、旧軽。朝ご飯は、「然林庵」でベーグルとコーヒー(プレーンベーグルサンド600円、ブレンド600円)。ようやく軽くすんで一息ついたら、お昼は容赦なくガッツリ系フレンチの「びすとろ パナッシェ」(ランチ1,350円)。午後も気は抜けず、ジョン・レノン・ファンなら軽井沢万平ホテルでお茶もしなきゃいけない(ロイヤルミルクティー750円)。夜は旬の食材が自慢の「Ogosso」で肴&お酒(シャモスキ2人前4,200円、おじや500円、お酒の種類と価格は不明)。
3日目、「丸山珈琲」で日本一おいしい珈琲をいただく(スペシャルブレンド525円、チョコレートケーキ420円)。そしてランチは「東間」の蕎麦懐石(「花の膳」3,800円)。

さあ、〆てお勘定は? 天井知らずのワインや地酒をまったく計算に入れずに、お二人様5万円超。さほどつつましくもない家庭における1か月の食費を二泊三日(の食事のみ)で凌駕することが、軽く可能だ。

これが、さとなおの「わしわし」である。ご丁寧に〈有名な「星のや」や「万平ホテル」に泊まったりするとまた全然違う二泊三日になると思う。その場合、夜は宿で食べて、夜のためにご紹介した「enboca」や「Ogosso」を昼に回すのもいいかもしれない〉ですってさ(「星のや」夕食付宿泊料お一人様22,000円〜、「万平ホテル」2食付同22,500円〜)。

彼の愛読書はジョルジュ・バタイユに違いない。〈「経済合理的かつ将来計画的な近代性」を蹂躙し、蕩尽・神聖・快楽に代表される「呪われた部分」にダイブすることこそが人間的な生を真に充実させていく〉というのが、その思想である。元祖「わしわし」の冒険少年おじさんが広めたのは「終わらないピーターパン症候群日本流」だった。さとなお流の二泊三日を実践するには、川下りより遥かに高いキヨブタから飛び降りねばならない。よく見ればタイトルにも「極楽」とついておるではないか。(oTo)

【五感連想】