情熱の本箱
徳川家重(9代将軍)、家定(13代将軍)が言語不明瞭だったのは、大奥の女たちの厚塗り白粉化粧が原因だった:情熱の本箱(367)

  

情熱的読書人間・榎戸 誠

TOKUGAWA15(フィフティーン)――徳川将軍15人の歴史がDEEPにわかる本』(堀口茉純著、草思社)では、徳川将軍として有名な人物だけでなく、そうでない人物についても、硬軟取り混ぜて紹介されている。さらに、将軍を取り巻く人物、例えば、11代・家斉の父親の治済(はるさだ)のような、歴史好きには興味津々の人物についても、きちんとページが割かれている(「わが子を将軍に!・・・一橋治済の恐るべき暗躍」)。

6代・家宣――。

「この人が今回の執筆の中でいちばん評価が上がりました。治世3年と短くなければ8代・吉宗の出る幕もなかったのではないかと思われるほど、真面目で優秀な人。インフルエンザの特効薬があればねぇ・・・」。私も、著者の説明を読んで、家宣のファンになってしまった。

8代・吉宗――

「この人は文句なしのスターです。ただ、将軍継嗣問題の際の手際の良さや、一連の解雇劇を見ると、相当にしたたかな一面も持ち合わせいたんだなぁと。ブラック吉宗、それはそれで魅力的ですね」。巷では中興の祖と評価されている吉宗だが、天の邪鬼の私は、どうしても好きになれない。

14代・家茂――

「誰が何と言おうと、ほーりー(堀口)一押し。昔からとにかく大好き! めっちゃ甘いもの与えて甘やかしたい」。お好きにどうぞ!

この著者は只者ではないな、と感じたのは、13代・家定に関する鋭い指摘である。「家定は、首や目や口が痙攣し言語不明瞭だったという証言が多数残っている。この症状から思い出されるのは9代将軍家重だ。アテトーゼタイプの脳性麻痺であったと考えられる家重にも、重い言語障害があり、その四肢はつねに不随意に動いていた。私は家定の場合も同障害を抱えていて、しかも原因は、大奥の女たちの化粧にあったのではないかと考えている。家定が生まれた文化・文政期というのは、贅沢を好む祖父・家斉の気風を受けて万事が華美になる傾向があった。大奥の女たちの白粉(おしろい)化粧が、最も厚塗りだったのもこの時期で、顔はもちろん、襟ぐりから胸元まで200回以上塗りたくるのだ。当時の白粉の成分は、人体に有害な水銀・鉛だから、日常的な化粧でまず母体が被曝する。母体が水銀被曝をした場合、胎児に及ぼすリスクとしてさまざまな臓器の発達障害や神経系障害があげられ、無事出生したとしても脳性麻痺などの障害が残ることがあるらしい。さらに大奥で生まれた赤ちゃんたちは、その後も白粉まみれの乳に口をつけて母乳摂取をするわけだから、水銀・鉛を直接経口摂取し続けていたのである。幼児期の水銀・鉛被曝はともに神経系に重い影響を及ぼし、知性指数の低下や多動性で暴力的になるといった症状が現れる。家定が『癇癪公方』と呼ばれたように短気で暴れグセがあったのも、じつはこんなところに原因があるのではないか(しかし知能については、質問に対して至極まっとうな正論で受け答えをしていることからも、さほどの損傷は受けていないように思える)。さらに水銀被曝は、男性ホルモンに悪影響を及ぼし、生殖機能が減退するそうだ。家定には正室が計3人嫁ぎ、寵愛している側室が1人いたが、子宝に恵まれなかったのはこのせいではなかろうか。家定評には『凡庸中の最も下等』by越前藩主・松平慶永、『異国船の事は一切お分かりもなく候て、恐入事のみなり』by海防参与・徳川斉昭など人格を否定するような文言が並ぶ。彼の障害が大奥の女たちの厚塗り化粧のせいかもしれないなどということは誰も夢にも思わなかっただろう」。因みに、3人目の正室が篤姫である。

管見の限り、こういう仮説が提唱された例を知らない。これは、実に説得力のある仮設で、歴史学者なら学説として発表しても恥ずかしくないレヴェルと考える。ただ、出産後、乳を与えるのは母親ではなく、乳母だろう。乳母であっても、白粉化粧から免れることはできなかったことだろうが。

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